大阪地方裁判所 平成8年(ワ)6092号 判決 1999年6月30日
主文
一1 被告栄光企画建設株式会社は、原告瀬戸進及び同瀬戸一美に対し、それぞれ金二四五五万五四六〇円及び内金二二一〇万円に対する平成八年二月二日から支払済みまで年六分の割合による、内金二四五万五四六〇円に対する同年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
2 被告栄光企画建設株式会社は、原告木下克己に対し、金四九六九万六五二〇円及び内金四五二〇万円に対する平成八年二月二日から支払済みまで年六分の割合による、内金四四九万六五二〇円に対する同年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
3 被告栄光企画建設株式会社は、原告三嶋義蔵に対し、金四六四一万一二〇〇円及び内金四一四〇万円に対する平成八年二月二日から支払済みまで年六分の割合による、内金五〇一万一二〇〇円に対する同年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
4 原告らの被告栄光企画建設株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。
二 原告らの被告有限会社ミズホ建築設計及び同協和不動産販売株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用中、原告らと被告栄光企画建設株式会社との間に生じた分は被告栄光企画建設株式会社の負担とし、原告らと被告有限会社ミズホ建築設計及び同協和不動産販売株式会社との間に生じた分は原告らの負担とする。
四 この判決の第一項の1ないし3は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告らは連帯して、原告瀬戸進(以下「原告進」という。)及び同瀬戸一美(以下「原告一美」という。)に対し、それぞれ金二五〇〇万円及び内金二二一〇万円に対する平成八年二月二日から支払済みまで年六分の割合による、内金二九〇万円に対する被告栄光企画建設株式会社(以下「被告栄光企画」という。)及び被告有限会社ミズホ建築設計(以下「被告ミズホ」という。)については同年六月二〇日から、被告協和不動産販売株式会社(以下「被告協和不動産」という。)については同月二一日から各支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
二 被告らは連帯して、原告木下克己(以下「原告木下」という。)に対し、金五〇〇〇万円及び内金四五二〇万円に対する平成八年二月二日から支払済みまで年六分の割合による、内金四八〇万円に対する被告栄光企画及び被告ミズホについては同年六月二〇日から、被告協和不動産については同月二一日から各払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
三 被告らは連帯して、原告三嶋義蔵(以下「原告三嶋」という。)に対し、金四八四一万一二〇〇円及び内金四一四〇万円に対する平成八年二月二日から支払済みまで年六分の割合による、内金七〇一万一二〇〇円に対する被告栄光企画及び被告ミズホについては同年六月二〇日から、被告協和不動産については同月二一日から各支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、原告らが、被告栄光企画から購入した建物に瑕疵があったとして、<1>被告栄光企画に対しては瑕疵担保責任又は不法行為に基づき、<2>被告ミズホに対しては工事監理者としての不法行為に基づき、<3>被告協和不動産に対しては仲介業者としての債務不履行又は不法行為に基づき、被告ら各自に対し、売買契約の解除による原状回復ないし損害賠償として、売買代金、登記費用、仲介手数料、ローン手数料、慰謝料及び弁護士費用の合計額のうち、原告進及び同一美は各自金二五〇〇万円(一部請求)、原告木下は金五〇〇〇万円(一部請求)、原告三嶋は金四八四一万一二〇〇円の支払を求めた事案である。
二 争いのない事実
1 被告栄光企画は、土木建築請負業を目的とする株式会社である。
被告ミズホは、建築、土木工事の設計及び監理を目的とする有限会社である。
被告協和不動産は、不動産売買・賃貸・仲介業を目的とする株式会社である。
2 原告一美は、平成六年九月一日、被告栄光企画との間で、原告一美が被告栄光企画から別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地一」という。)及び同目録(二)記載の建物(以下「本件建物一」という。)を代金四四二〇万円で買い受ける旨の不動産契約証書(甲四)を交わした(以下「本件売買契約一」という。但し、後記三、1記載のとおり、本件売買契約一の買主について、原告進及び同一美は同原告ら両名である旨主張し、被告栄光企画及び同協和不動産は原告一美のみである旨主張するので、この点は本件の争点となっている。)。
3 原告木下は、平成六年九月六日、被告栄光企画から別紙物件目録(三)記載の土地(以下「本件土地二」という。)及び同目録(四)記載の建物(以下「本件建物二」という。)を代金四五二〇万円で買い受けた(以下「本件売買契約二」という。)。
4 原告三嶋は、平成七年七月三日、被告栄光企画から別紙物件目録(五)記載の土地(以下「本件土地三」という。)及び同目録(六)記載の建物(以下「本件建物三」という。)を代金四一四〇万円で買い受けた(以下「本件売買契約三」という。)。
5 被告ミズホは、被告栄光企画を代理して、平成六年六月二日、大阪市東成区大今里二丁目四五番一一(但し、同年九月六日付けでなされた分筆前の地番。以下「四五番一一の土地」という。)所在の土地を建築場所とする四件分の建築確認申請(以下「本件各建築確認申請」という。)を行い、同月二四日建築主事の確認を得た。
本件各建築確認申請の際に提出された各確認申請書(以下「本件各建築確認申請書」という。)には、工事監理者欄に被告ミズホの名前が記載されるとともに、工事監理を行うことについての被告ミズホの承認を受けて、被告栄光企画が被告ミズホを工事監理者として選定する旨記載した選定届(以下「本件各選定届」という。)が添付されている。
6 被告協和不動産は、本件売買契約一ないし三(以下、これらの契約を合わせて「本件各売買契約」という。)の締結に際し、仲介業務を行った。
三 争点に関する当事者の主張
1 本件売買契約一の買主
(一) 原告進及び同一美の主張
不動産契約証書(甲四)には、原告一美のみが買主であるかのように記載されているが、実際には原告進も売買代金を負担し、持分各二分の一の割合で所有権を取得したのであるから、本件売買契約一の買主は、原告進及び同一美の両名である。
(二) 被告栄光企画及び同協和不動産の主張
本件売買契約一の買主は、原告一美のみである。
2 本件建物一ないし三(以下、これらの建物を合わせて「本件各建物」という。)の瑕疵の有無
(一) 原告らの主張
本件各建築確認申請書に添付された施工図面(以下「本件各建築確認申請図面」という。)によると、本件各建物の柱には、一階部分は二〇〇ミリメートル四方、厚さ六ミリメートルの角型鉄骨を、二、三階部分は一五〇ミリメートル四方、厚さ六ミリメートルの角型鉄骨を使用することとされていたにもかかわらず、被告栄光企画が実際に使用したのは、各階とも一五〇ミリメートル×一〇〇ミリメートル、厚さ六ミリメートルのH型鋼であった。
このように、被告栄光企画が本件各建築確認申請図面どおりに建築しなかったことにより、本件各建物の基礎部分及び地上建物部分は建築基準法所定の構造強度を有しないこととなったので、本件各建物には瑕疵が存するというべきである。
(二)(1) 被告栄光企画の主張
本件各建物の柱について、原告ら主張のとおりのH型鋼を使用した事実は認める。しかしながら、被告栄光企画は、構造強度を確保するため、<1>本件建物一については、玄関側一階駐車スペース入口のH型鋼の内側に厚さ六ミリメートルの鉄板を溶接するとともに、玄関側二、三階部分及び最奥側の一階ないし三階部分に筋交いとして両側に六〇ミリメートル×六〇ミリメートル、厚さ二三ミリメートルの角型パイプを溶接して補強し、<2>本件建物二及び三については、一階ないし三階にわたって、梁の中間に一〇〇ミリメートル×一〇〇ミリメートル、厚さ四・五ミリメートルの鉄鋼の角柱を設置することによって補強している。
したがって、本件各建物は、建築基準法所定の構造強度ないし本件地域において通常想定される程度の地震・台風等に対する十分な安全性を有しているから、瑕疵は存しないというべきである。
(2) 被告ミズホ及び同協和不動産の主張
原告ら主張の事実は知らない。
3 被告栄光企画の責任
(一) 原告らの主張
(1) 原告らは、被告栄光企画に対し、本件各売買契約に基づき、次のとおり代金を支払った。
原告進及び同一美 合計金四四二〇万円
原告木下 金四五二〇万円
原告三嶋 金四一四〇万円
前記2(一)記載のとおり、本件各建物には瑕疵が存するというべきところ、右瑕疵は通常人が普通の注意を用いても発見することができない隠れた瑕疵であり、これにより原告らは本件各売買契約の目的を達することができなくなったから、原告らは、平成八年二月一日、被告栄光企画に対し、瑕疵担保責任に基づき、本件各売買契約を解除し、右売買代金を返還すべき旨の意思表示をした。
(2) また、原告らは、本件各建物に瑕疵が存したことにより、次のとおりの損害を被った。
原告進及び同一美 登記費用 金四九万五四〇〇円
仲介手数料 金一四一万五五二〇円
慰謝料 金三〇〇万円
弁護士費用 金二〇〇万円
原告木下 仲介手数料 金一四九万七六二〇円
慰謝料 金三〇〇万円
弁護士費用 金二〇〇万円
原告三嶋 登記費用 金六三万一〇〇〇円
仲介手数料 金一三二万八七〇〇円
ローン手数料 金五万一五〇〇円
慰謝料 金三〇〇万円
弁護士費用 金二〇〇万円
(3) よって、被告栄光企画は、原告ら各自に対し、本件各売買契約の解除による原状回復及び瑕疵担保責任に基づき、次の金額(前記1及び2の合計金額)を支払うべき義務を負っていることになる。
原告進及び同一美に対し 金五一一一万〇九二〇円
(各自金二五五五万五四六〇円)
原告木下に対し 金五一六九万七六二〇円
原告三嶋に対し 金四八四一万一二〇〇円
(4) また、被告栄光企画は、実際に本件各建物を建築する際に使用するつもりのない本件施工図面を被告ミズホに作成させて建築確認を得た後、これと全く異なる施工図面(乙一、二)に基づき、本件各建物を建築した。被告栄光企画は、右施工図面(乙一、二)では構造強度が建築基準法に適合しないことを知っていながら、安全性より経済性を優先させて本件各建物を建築したものであり、かかる被告栄光企画の行為は、建築基準法の趣旨を潜脱する極めて悪質ものであって、建設業者として不適正なものといわざるを得ないから、被告栄光企画は、原告ら各自に対し、不法行為に基づき、前記(3)記載の金額を原告らが被った損害として賠償すべき義務を負う。
(二) 被告栄光企画の主張
(1) 前記2(二)の(1)記載のとおり、本件各建物に瑕疵は存しないというべきであるが、仮に瑕疵が存したとしても、原告らは、被告協和不動産から本件各建物が本件各建築確認申請図面とは異なっているとして現状による売買を行う旨説明を受け、これを了解した上で本件各売買契約を締結したものであるから、原告らは構造上の安全性についても現状によることを了解していたというべきである。よって、被告栄光企画は本件各建物の瑕疵について責任を負わない。
(2) 仮に被告栄光企画が本件各建物の瑕疵について責任を負うことがあったとしても、本件各売買契約が新築建物の取得という実質を有していることに鑑みれば、請負契約における担保責任の規定が準用ないし類推適用されるべきであるところ、本件各建物は、今後補強工事を行うことによって契約の目的を達することが可能であるから、本件各売買契約を解除することは許されないというべきである。
(3) 原告らは、本件各売買契約の締結に当たり、本件各建物の構造上の安全性について点検・調査するに十分な時間と機会を有していたにもかかわらず、これを怠ったのであるから、これに見合う損害は相殺されるべきである。また、原告らの請求金額から、原告らが本件各建物購入後本件口頭弁論終結時まで右各建物に居住・使用してきたことに伴う使用料相当額も相殺されるべきである。
4 被告ミズホの責任
(一) 原告らの主張
被告ミズホは、本件各建築確認申請の際、建築主事に対し、本件各建物について工事監理を行う旨届け出たのであるから、被告栄光企画との間において工事監理契約を締結したか否かにかかわらず、建築士法一八条一項に基づき、工事監理者としての業務を誠実に遂行すべき義務を負っていたというべきである。しかるに、被告ミズホは、右義務の履行を怠り、これにより被告栄光企画が建物の強度に重大な瑕疵のある本件各建物を建築するのを容易にした。したがって、被告ミズホは、原告ら各自に対し、不法行為に基づき、原告らが被った損害(前記3(一)の(3)記載の金額)を賠償すべき義務を負う。
(二) 被告ミズホの主張
被告ミズホは、被告栄光企画から本件各建築確認申請手続の代理と本件各建築確認申請図面の作成を委託されたにすぎず、被告栄光企画との間で本件各建物について工事監理契約を締結したわけではないから、被告ミズホが工事監理者であることを前提とする原告らの主張は失当である。また、建築確認申請書に工事監理者の名前を記載することは建築基準法規において求められているわけではなく、本件においても、大阪市の行政指導に従って被告栄光企画が被告ミズホの名前を記載したにすぎないものであるし、本件各選定届に被告ミズホが本件各建物について工事監理を行うことを承認する旨記載されていることについても、建築主事に対する工事監理者の選定届の提出を義務づけられているのは建築主(本件の場合は被告栄光企画)であって、かつ、右選定届は、いったん提出されたとしても後日建築主が変更届を提出することにより工事監理者を変更することが予定されている性質のものにすぎないから、これらの事実によって被告ミズホが工事監理者としての義務を負うことはないというべきである。
5 被告協和不動産の責任
(一) 原告らの主張
被告協和不動産は、本件各建築確認申請図面と異なり、本件建物一及び二の柱にH型鋼が使用されている事実を知っていたにもかかわらず、これを告げることなく、原告進、同一美及び同木下に対し、本件建物一及び二の販売を仲介し、これを購入させた。被告協和不動産の右行為は、完成時の建物の構造という重要事項について説明を怠ったものであるから、宅地建物取引業法三五条一項五号に違反する行為というべきである。
また、被告協和不動産は、本件各建築確認申請図面と異なり、本件建物三の柱にH型鋼が使用されている事実を知っていたにもかかわらず、原告三嶋に対し、一五センチメートル角の鉄骨が使用されているとの誤った説明をして本件建物三の販売を仲介し、これを購入させた。被告協和不動産の右行為は、故意に事実を告げず、又は不実の事実を告げたものであるから、宅地建物取引業法四七条に違反する行為というべきである。
したがって、被告協和不動産は、原告ら各自に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、原告らが被った損害(前記3(一)の(3)記載の金額)を賠償すべき義務を負う。
(二) 被告協和不動産の主張
被告協和不動産が、本件各建物の柱にH型鋼が使用されている事実を知っていたにもかかわらず、これを告げることなく仲介を行ったり、あるいは故意に事実を告げず、又は不実の事実を告げて仲介を行った事実はない。
第三 争点に対する判断
一 前記第二、二の争いのない事実に、証拠(甲一ないし一二、一五、一六、一九、二〇、二三、二四、二六の1ないし10、二七の1、2、二八の1ないし6、二九の1ないし4、三〇の1ないし6、三一、三三ないし四一、四二の1ないし10、四三の1ないし3、四四の1ないし3、四五、四六、乙一の1ないし5、二の1ないし7、三の1、2、丙一、丁一、原告本人瀬戸一美、同木下克己、同三嶋義蔵、被告ミズホ代表者山崎一弘、被告協和不動産代表者徳岡英樹、鑑定の結果)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 被告栄光企画は、大阪市東成区大今里二丁目四五番一一、宅地二二七・八五平方メートル(以下「分筆前の四五番一一の土地」という。)に四棟の建物を建築して分譲することを計画し、平成六年六月二七日、藤木常三郎及び藤木澄子から分筆前の四五番一一の土地を購入した上、同年九月六日、同土地を本件土地一ないし三を含む四筆の土地に分筆した。
2(一) 被告協和不動産は、平成六年初め頃、被告栄光企画から、分筆前の四五番一一の土地及び右土地上に建築する建物の売却斡旋を依頼され、同年三月頃から販売用ちらしを作成、配布する等して斡旋を行っていた。なお、被告協和不動産は、被告栄光企画から販売用ちらしを作成するのに必要な間取り図の交付を受けたが、実際の施工図面(乙一の1ないし5、二の1ないし7)を確認したことはなかった。
そして、右斡旋に応じた原告らと被告栄光企画との間において、後記(二)ないし(四)のとおり、順次本件各売買契約が締結された。
(二) 原告進は、娘の原告一美が平成七年三月に結婚することになったため、平成六年頃、娘夫婦が居住するための土地付き建物を探していたところ、被告協和不動産が作成、配布したちらしを見て本件建物一及び本件土地一の存在を知った。原告進は、右土地建物を実際に見て気に入り、原告一美も原告進が気に入ったのであれば構わない旨返答したことから、これを購入することとした。もっとも、原告進は、その購入資金全額を同原告が単独で支出したのでは贈与税の負担が大きくなりすぎることから、原告一美にも資金を半分支出させ、共同して購入することとした。
原告進と同一美は、平成六年八月三〇日、被告協和不動産の案内により本件建物一及び本件土地一を検分した。右当時、本件建物一はまだ完成していなかったものの、既に棟上げを終え、壁も出来ていたことから、建物の外観から柱や基礎の構造を正確に見極めることは困難な状態であった。そして、同年九月一日、原告進と同一美は、被告協和不動産の立会の下、被告栄光企画との間で本件売買契約一を締結した。その際、原告一美は、被告栄光企画に対し、手付金四四〇万円を支払った。なお、原告進及び同一美は、実際に本件建物一に居住するのは原告一美夫婦であったことから、不動産契約証書(甲四)の買主の欄には、原告一美の名前のみを記載した。
原告進と同一美は、同年一一月一一日、被告栄光企画に対し、残金三九四〇万円及び消費税金四〇万円を支払ったことにより、売買代金四四二〇万円全額を完済した。なお、右残金三九四〇万円のうち、金二一九〇万円については、原告進が額面金一六九〇万円の小切手と現金五〇〇万円を合わせて支払ったものであり、その余の金一七五〇万円については、原告一美が原告進から金一〇〇〇万円の贈与を受け、額面金一七五〇万円の小切手により支払ったものであった。また、原告進は、右同日、被告協和不動産に対し、仲介手数料金一四一万五二二〇円を支払ったが、被告協和不動産が発行した右仲介手数料の領収証(甲二八の6)の宛名は、原告進と同一美の連名となっている。
本件土地一については、同年一一月一一日付け売買を原因とする原告進及び同一美に対する持分各二分の一の所有権移転登記が経由されており、本件建物一については、右同日、原告進の持分を五〇分の二七、同一美の持分を五〇分の二三とする所有権保存登記がなされた後、持分各二分の一とする所有権更正登記がなされている。なお、右登記費用については、原告進と同一美が金四九万五四〇〇円を支出している。
(三) 原告木下は、被告協和不動産が作成、配布したちらしを見て本件建物二及び本件土地二の存在を知り、平成六年九月四日、被告協和不動産の案内により右土地建物を検分した。右当時、本件建物二はまだ完成していなかったものの、既に棟上げを終え、壁も出来ていたことから、建物の外観から柱や基礎の構造を正確に見極めるのは困難な状態であった。そして、同年九月六日、原告木下は、被告協和不動産の立会の下、被告栄光企画との間で本件売買契約二を締結した。その際、原告木下は、被告栄光企画に対し、手付金四四〇万円を支払い、その後、同年一一月一七日には残金四〇四〇万円及び消費税金四〇万円を支払ったことにより、売買代金四五二〇万円を完済した。また、原告木下は、右同日、被告協和不動産に対し、仲介手数料金一四九万七六二〇円を支払った。
本件土地二については、同年一一月一七日付け売買を原因とする原告木下に対する所有権移転登記が経由されており、本件建物二については、右同日、所有者を原告木下とする所有権保存登記がなされている。
(四) 原告三嶋は、自宅の買い換えを検討していたところ、被告協和不動産が作成、配布したちらしを見て本件建物三及び本件土地三の存在を知り、平成七年六月頃、被告協和不動産の案内により右土地建物を検分した。原告三嶋は、いわゆる阪神淡路大震災の直後であったこともあり、買い換え前の自宅よりも太い鉄骨が使用された建物を購入したいと考えていたが、右当時、本件建物三は既に完成しており、建物の外観から柱や基礎の構造を見極めることは出来なかった。そこで、原告三嶋は、被告協和不動産に対し、本件建物三に使用されている鉄骨の大きさについて質したところ、同被告が被告栄光企画から本件建物三に使用されている鉄骨は一五センチ角である旨説明を受けているとの回答をしたことから、買い換え前の自宅の鉄骨一二センチ角よりも太いことを確認し、本件建物三及び本件土地三を購入することとした。
原告三嶋は、同年七月三日、被告協和不動産の立会の下、被告栄光企画との間で本件売買契約三を締結した。その際、原告三嶋は、被告栄光企画に対し、手付金二〇〇万円を支払い、その後、同月二〇日には、残金三九四〇万円を支払ったことにより、売買代金四一四〇万円を完済した。また、原告三嶋は、右同日、被告協和不動産に対し、仲介手数料金一三二万八七〇〇円及びローン手数料金五万一五〇〇円を支払った。
本件土地三については、同年七月二〇日付け売買を原因とする原告三嶋に対する所有権移転登記が経由されており、本件建物三については、右同日、所有者を原告三嶋とする所有権保存登記がなされている。なお、右登記費用については、原告三嶋が金六三万一〇〇〇円を支出している。
3 被告ミズホは、平成六年五月三〇日、被告栄光企画から、本件各建物についての建築確認申請の代理及び確認申請図面の作成の依頼を受け、同年六月二日、本件各建築確認申請を行い、同月二四日、建築主事の確認を得た。なお、被告ミズホは、本件各建物について、被告栄光企画との間で工事監理契約を締結したことはなく、建築確認申請の代理及び確認申請図面の作成のみの業務について委託契約を締結していたものであり、平成六年七月二五日、被告栄光企画から右業務に対する報酬として金一一六万八〇〇〇円を受領していた。
もっとも、本件各建築確認申請書の工事監理者の欄には、被告ミズホの名前が記載されるとともに、工事監理を行うことについての被告ミズホの承認を受けて、被告栄光企画が被告ミズホを工事監理者として選定する旨記載した選定届(本件各選定届)が添付されているが、右は、大阪市においては建築確認申請の際に申請書に工事監理者の名前を記載するよう指導されていることから、被告栄光企画が、被告ミズホに対し、現段階では工事監理者を誰にするかまだ決めていないので、とりあえず工事監理者の欄には被告ミズホの名前を記載しておいてほしい旨要請し、被告ミズホ自身も、被告栄光企画には一級建築士の資格を有する従業員がいたことから、実際にはその者が本件各建物について工事監理を行うであろうと考え、右要請に応じて暫定的に記載したことによるものであった。
なお、建築基準法五条の二第二項、建築士法三条の二第一項二号によると、建築主は、延べ面積が百平方メートルを超え、又は階数が三以上の建築物を新築する場合においては、一級建築士又は二級建築士である工事監理者を定めなければならないとされているが、それ以上に、建築主に対し、建築確認申請を行うに当たって工事監理者を選定しておくことまで要求する旨定めた規定はなく、ただ、建築基準法施行規則中に、工事監理者が未定の場合には、後で定まってから工事着手前に届け出ることを要する旨の注意規定が存している(丙一の別記第一号様式(注意)2第二面関係<4>参照)。また、建築基準法五条の二第二項に基づき、建築主が工事監理者を選定したことを届け出る場合、当該工事監理者の承認を得て選定届を提出する扱いとされているが、後日これを変更する場合には、変更前の工事監理者の承諾等の手続を要することなく、建築主が一方的に変更届を提出することによって変更することが可能である。
4 本件各建築確認申請図面によると、本件建物一の柱には、一階部分は二〇〇ミリメートル四方、厚さ六ミリメートルの角型鉄骨を、二、三階部分は一五〇ミリメートル四方、厚さ六ミリメートルの角型鉄骨を使用することとされており、本件建物二及び本件建物三の柱には、一階部分は二〇〇ミリメートル四方、厚さ九ミリメートルの角型鉄骨及び一七五ミリメートル四方、厚さ六ミリメートルの角型鉄骨を、二階部分は二〇〇ミリメートル四方、厚さ六ミリメートルの角型鉄骨を及び一五〇ミリメートル四方、厚さ六ミリメートルの角型鉄骨を、三階部分は一五〇ミリメートル四方、厚さ六ミリメートルの角型鉄骨を使用することとされていた。また、本件各建物の基礎部分については、べた基礎と地中梁を施工することによって構造耐力を確保するものとされていた。
しかしながら、被告栄光企画は、実際には、本件各建築確認申請図面と異なる内容の施工図面(乙一の1ないし5、二の1ないし7)を作成させた上、本件各建物の柱に各階とも一四八ミリメートル×一〇〇ミリメートル、厚さ六ないし九ミリメートルのH型鋼を使用した上、基礎部分については、鑑定人である坪井秀樹一級建築士が、本件建物一の南西部の基礎を掘削調査した結果、底盤の面積が〇・六四平方メートルの独立基礎とし、かつ、基礎と基礎とを繋結する地中梁を施工しないという工法により、本件各建物を建築したことが判明した(もっとも、被告栄光企画は、本件各建物の構造強度を補強するため、<1>本件建物一については、玄関側一階駐車スペース入口のH型鋼の内側に厚さ六ミリメートルの鉄板を溶接するとともに、玄関側二、三階部分及び最奥側の一階ないし三階部分に筋交いとして両側に六〇ミリメートル×六〇ミリメートル、厚さ二三ミリメートルの角型パイプを溶接し、<2>本件建物二及び三については、一階ないし三階にわたって、梁の中間に一〇〇ミリメートル×一〇〇ミリメートル、厚さ四・五ミリメートルの鉄鋼の角柱を設置している。)。
そのため、鑑定の結果によると、本件各建物の基礎部分については、そもそも構造計算が成立しない状態となっており、これを建築基準法に適合するようにするためには新規に基礎を築造する必要があるが、実際には、土留めの問題や周囲の状況から右築造を行うことは不可能に近く、また、本件各建物の地上建物部分についても、建築基準法に適合した構造強度を有しておらず、これを適合するように補修するためには、既設柱及び既設梁にプレートや角型鋼管、H型鋼等で補強する工事が必要であって、右工事については各建物毎に金一三七二万六〇〇〇円程度を要する上、施工精度上も極めて高度な技術を要することになる。
5 原告らは、本件各建物が新築であるにもかかわらず、約二〇メートル離れたところにある道路上にできた一センチメートル程の段差をバスが通りすぎただけで揺れを感じたり、外壁に多数の亀裂が生じているのを発見する等したことから、本件各建物の安全性に疑問を抱くようになった。そこで、原告らは、被告栄光企画及び被告協和不動産を交えて話し合いの場を持ったものの、右被告から納得のいく回答が得られなかったことから、平成八年二月一日、被告栄光企画に対し、本件各売買契約を解除し、支払済みの売買代金を返還すべき旨の意思表示をした上、同年六月一三日、本件訴えを提起した。
二 右一4の認定事実に関し、中岡淳一作成の「現状建物の安全性についての検討書」と題する書面(乙四)中には、本件建物一については柱や梁に補強プレートや変形ブレースH鋼等を取り付け、柱脚を鉄筋コンクリートで根巻き補強することによって安全性が確保される旨の記載部分がある。しかしながら、右書面(乙四)は、現状の基礎の状態が不明であることを理由に、単に乙一の施工図面に基づき、GLより上部の地上建物部分の補強方法に限って検討したものにすぎず、現実に基礎を掘削調査した上で、建物の基礎部分の強度及び地上建築部分の構造の強度すべてについて建築基準法に適合するか否かを検討したものではないから、鑑定の結果と対比してその証拠価値は格段に劣るといわざるを得ない。
そして、株式会社創都設計作成の概算見積書(甲二五)及び被告栄光企画作成の見積書(乙五)は、いずれも前記書面(乙四)において検討された補強方法を行う際の見積を示したものと推認され、右補強方法を採用することができない以上、これらの見積書(甲二五、乙五)記載の金額も採用することができない。
したがって、これらの証拠は、前記一の認定をなんら左右するものではない。
三 そこで、前記一で認定した事実を前提に、以下争点について検討する。
1 本件売買契約一の買主について
前記一、2(二)認定の事実によれば、原告進と同一美は、本件建物一及び本件土地一を共同して購入することとし、本件売買契約一を締結する際ともに臨席していたもので、原告進から同一美に対して購入資金一〇〇〇万円が贈与されたものとはいえ、実際にも資金を半分ずつ支出し、本件建物一及び本件土地一については原告進及び同一美の持分を各二分の一とする所有権移転登記ないし所有権保存登記(更正登記)がなされているというのであるから、これら諸点に照らすと、本件売買契約一の買主は原告進及び同一美の両名と認めるのが相当である。
この点について、被告栄光企画及び同協和不動産は、不動産契約証書(甲四)の買主の欄に、原告一美の名前のみが記載されていることをもって、本件売買契約一の買主は原告一美のみである旨主張する。しかしながら、前記一、2(二)で認定の事実によれば、原告進及び同一美は、実際に本件建物一に居住するのが原告一美夫婦であったことから原告一美の名前のみを記載したにすぎないのであるから、右記載がなされていることをもって本件売買契約一の買主が原告一美のみであると即断することはできないし、そもそも右主張は、被告協和不動産自身、仲介手数料の領収証(甲二八の6)の宛名を原告進と同一美の連名にするなど両名を買主として扱ってきたこととも矛盾するものである。したがって、右主張は採用することができない。
2 本件各建物の瑕疵の有無について
前記一、4で認定のとおり、本件各建物は、柱の鉄骨や基礎部分の構造が本件各建築確認申請図面と異なる施工がなされたことにより、<1>基礎部分については、そもそも構造計算が成立しない状態となっており、これを建築基準法に適合するようにするためには新規に基礎を築造する必要があるが、実際には、土留めの問題や周囲の状況から右築造を行うことは不可能に近く、<2>地上建物部分についても、建築基準法に適合した構造強度を有しておらず、これを適合するように補修するためには、既設柱及び既設梁にプレートや角型鋼管、H型鋼等で補強する工事が必要であって、右工事については各建物毎に金一三七二万六〇〇〇円程度を要する上、施工精度上も極めて高度な技術を要することが認められるから、本件各建物に瑕疵が存在するのは明らかである。
この点について、被告栄光企画は、本件各建物は建築基準法所定の構造強度ないし本件地域において通常想定される程度の地震・台風等に対する十分な安全性を有しており、瑕疵は存しない旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はないのみならず、後者の部分についてはそもそも主張自体不明確であるといわざるを得ないから、右主張は採用することができなぃ。
3 被告栄光企画の責任について
(一) 前記2において説示したとおり、本件各建物には瑕疵が存在するところ、前記一、2で認定の事実によれば、原告進、同一美及び同木下については、本件建物一ないし二を購入した当時、既に棟上げを終え、壁も出来ており、原告三嶋については、本件建物三を購入した当時、既に完成していたため、いずれも建物の外観から柱や基礎の構造を正確に見極めるのは困難な状態であったのであるから、右瑕疵は建築の専門家ではない通常人が普通の注意を用いても発見することができない隠れた瑕疵に当たるというべきである。したがって、原告らの瑕疵担保責任に基づく解除は有効であり、被告栄光企画は、解除による原状回復義務に基づき、原告進及び同一美に対しては金四四二〇万円(各自金二二一〇万円)、原告木下に対しては金四五二〇万円、原告三嶋に対しては金四一四〇万円を支払うべき義務を負うことになる。
この点について、被告栄光企画は、原告らは、被告協和不動産から本件各建物が本件各建築確認申請図面とは異なっているとして現状による売買を行う旨説明を受け、これを了解した上で本件各売買契約を締結したものであるから、原告らは本件各建物の構造上の安全性についても現状によることを了解していた旨を主張するけれども、仮に原告らがかかる説明を受けた事実が認められるとしても、右事実から原告らが本件各建物の構造上の安全性についても現状によることを了解していたものとは到底認め難く、右主張は採用できない。
また、被告栄光企画は、本件各売買契約については請負契約における担保責任の規定が準用ないし類推適用されるべきであるところ、本件各建物は、今後補強工事を行うことによって契約の目的を達することが可能であるから、契約解除は許されない旨主張する。本件各売買契約について請負契約における担保責任の規定が準用ないし類推適用されるかどうかはさて措き、確かに、売買契約の買主は目的物の瑕疵により契約の目的を達することができない場合に限って契約を解除しうる(民法五七〇条、五六六条一項)というべきではあるけれども、前記一、4で認定の本件建物の瑕疵の内容・程度に微するならば、もはや本件各建物に補強工事を施すことによって本件各売買契約の目的を達することができないことは明らかであるから、被告栄光企画の右主張も採用することができない。
(二) また、前記一、3及び4で認定の事実によれば、被告栄光企画は、建築確認申請書に添付するための図面を被告ミズホに作成させたが、実際には右図面を使用することなく、これと異なる施工図面(乙一の1ないし5、二の1ないし7)を新たに作成させた上で本件各建物を建築し、その結果、基礎部分についてはそもそも構造計算が成立せず、地上建物部分についても建築基準法に適合した構造強度を有しないという瑕疵を生ぜしめたのであるから、かかる事実に被告栄光企画が土木建築請負業を目的とする株式会社であることをも併せ考えると、被告栄光企画は、少なくとも本件各建築確認申請図面どおりに建築しなければ、本件各建物に右の如き瑕疵が生ずるであろうことを予見し得たものというべく、したがって、同被告には本件各建物に右瑕疵を生じさせたことにつき過失が認められるから、原告ら各自に対し、不法行為に基づき、相当因果関係のある損害を賠償すべき義務を負うことになる。
そして、前記一、2(二)ないし(四)で認定の各事実に、本件各建物の瑕疵の内容・程度及び本件訴訟に至る経緯等一切の事情を総合すると、被告栄光企画の不法行為と相当因果関係のある損害は、次のとおりと認めるのが相当である。
(1) 原告進及び同一美(以下の金額は両名の合計額)
登記費用 金四九万五四〇〇円
仲介手数料 金一四一万五五二〇円
慰謝料 金一〇〇万円
弁護士費用 金二〇〇万円
合計 金四九一万〇九二〇円
(2) 原告木下
仲介手数料 金一四九万六五二〇円
慰謝料 金一〇〇万円
弁護士費用 金二〇〇万円
合計 金四四九万六五二〇円
(3) 原告三嶋
登記費用 金六三万一〇〇〇円
仲介手数料 金一三二万八七〇〇円
ローン手数料 金五万一五〇〇円
慰謝料 金一〇〇万円
弁護士費用 金二〇〇万円
合計 金五〇一万一二〇〇円
(三) なお、被告栄光企画は、(1)原告らは、本件各売買契約の締結に当たり、本件各建物の構造上の安全性について点検・調査するに十分な時間と機会を有していたにもかかわらず、これを怠ったのであるから、これに見合う損害は相殺されるべきであり、また、(2)原告らの請求金額から、原告らが本件各建物購入後本件口頭弁論終結時まで右各建物に居住・使用してきたことに伴う使用料相当額も相殺されるべきであると主張する。
しかしながら、先ず、被告栄光企画の右(1)の主張は過失相殺の主張と解されるところ、本件各建物の瑕疵がいずれも建築の専門家ではない通常人が普通の注意を用いても発見できない隠れた瑕疵に当たるものであることは前述のとおりであって、本件各売買契約の締結に当たり、原告らにはなんらの落度もないというべきであるから、過失相殺をすべき理由はない。また、同被告の右(2)の主張は、原告らの本件各建物の使用料相当額を不当利得として、その返還請求債権との相殺を求める主張と善解し得るが、被告栄光企画は、右不当利得返還請求権発生の要件についてなんら主張・立証をしない。
よって、被告栄光企画の前記主張もまた理由がない。
(四) したがって、結局被告栄光企画は、原告らそれぞれに対し、以下の金額を支払うべき義務がある。
(1) 原告進及び同一美 金四九一一万〇九二〇円
(各自金二四五五万五四六〇円)
(2) 原告木下 金四九六九万六五二〇円
(3) 原告三嶋 金四六四一万一二〇〇円
4 被告ミズホの責任について
原告らは、被告ミズホが本件各建築確認申請の際、建築主事に対し、工事監理を行う旨届け出た以上、被告栄光企画との間において工事監理契約を締結したか否かにかかわらず、建築士法一八条一項に基づき、工事監理者としての業務を誠実に遂行すべき義務を負っているとして、被告ミズホは、右義務の履行を怠ったことにつき、原告ら各自に対し、不法行為に基づく責任を負うべきである旨を主張するところ、前記一、3で認定の事実によれば、本件各建築確認申請書の工事監理者の欄には被告ミズホの名前が記載されるとともに、本件各選定届には被告ミズホを工事監理者として選定する旨記載されていることが認められる。
しかしながら、他方、前記一、3で認定の事実によれば、実際には、被告ミズホは、本件各建物について、被告栄光企画との間で工事監理契約を締結したことはないこと、建築主に対して建築確認申請を行うに当たって工事監理者を選定しておくことを要求する旨定めた法の規定はなく、工事監理者が未定の場合には、後で定まってから工事着手前に届け出ることを要する旨の注意規定が存するのみであるところ、被告栄光企画は、建築確認申請の際に申請書に工事監理者の名前を記載することを要求する大阪市の行政指導に沿うべく、とりあえず被告ミズホの名前を記載しておいてほしい旨要請し、被告ミズホ自身も、被告栄光企画の一級建築士の資格を有する従業員が工事監理を行うであろうと考えたことから、右要請に応じて自己の名前を暫定的に記載したにすぎないこと、さらに、そもそも工事監理者を定めた旨届け出ることを要するとされている主体は建築主であって、いったん定めた工事監理者を後日変更する場合にも、変更前の工事監理者の承諾等の手続を要することなく、建築主が一方的に変更届を提出することによって変更することができることが認められるのであって、これらの事実を総合勘案すると、本件各建築確認申請書及び本件各選定届の前記記載のみから、本件各建物について、被告ミズホが工事監理者としての業務を誠実に遂行すべき義務を負っていたものと認めるのは困難というほかはない。
したがって、被告ミズホの原告らに対する不法行為責任が成立する余地はない。
5 被告協和不動産の責任について
原告らは、被告協和不動産は、本件各建物の柱にH型鋼が使用されている事実を知っていたにもかかわらず、これを告げることなく仲介を行ったり、あるいは故意に事実を告げず、又は不実の事実を告げて仲介を行ったとして、原告ら各自に対し、債務不履行ないし不法行為に基づく責任を負うべきである旨を主張する。
確かに、前記一、2(四)で認定の事実によれば、被告協和不動産は、原告三嶋に対し、被告栄光企画から本件建物三に使用されている鉄骨は一五センチ角である旨説明を受けていると回答したことが認められるけれども、それ以上に、被告協和不動産が実際には本件各建物の柱にH型鋼が使用されている事実を知っていたにもかかわらず、これを告げることなく仲介を行ったり、あるいは故意に事実を告げず、又は不実の事実を告げて原告らに対して仲介を行ったとの事実までを認めるに足りる証拠はない(被告協和不動産が本件各建物が建築される前から被告栄光企画の売買仲介業務に携わっていたことや、本件建物一及び二については棟上げが終了した時点において現場を案内していることを勘案しても、右事実のみから被告協和不動産が本件各建物の柱にH型鋼が使用されている事実を知っていたものと推認することはできない。)。
したがって、被告協和不動産の原告らに対する債務不履行責任及び不法行為責任はいずれも成立しない。
第四 結論
よって、原告らの被告栄光企画に対する請求は、原告進及び同一美については金四九一一万〇九二〇円(各自金二四五五万五四六〇円)及び内金四四二〇万円(各自金二二一〇万円)に対する平成八年二月二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による、内金四九一万〇九二〇円(各自金二四五万五四六〇円)に対する同年六月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める限度において、原告木下については金四九六九万六五二〇円及び内金四五二〇万円に対する平成八年二月二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による、内金四四九万六五二〇円に対する同年六月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める限度において、原告三嶋については金四六四一万一二〇〇円及び内金四一四〇万円に対する平成八年二月二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による、内金五〇一万一二〇〇円に対する同年六月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める限度においてそれぞれ理由があるから認容し、原告らの被告栄光企画に対するその余の請求及び被告ミズホと被告協和不動産に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(別紙)
物件目録
(一) 所在 大阪市東成区大今里二丁目
地番 四五番一七
地目 宅地
地積 四五・三九平方メートル
(二) 所在 大阪市東成区大今里二丁目四五番地一七
家屋番号 四五番一七
種類 居宅
構造 鉄骨造スレート葺三階建
床面積 一階 二四・三一平方メートル
二階 三六・〇七平方メートル
三階 三六・〇七平方メートル
(三) 所在 大阪市東成区大今里二丁目
地番 四五番一九
地目 宅地
地積 六八・九四平方メートル
(四) 所在 大阪市東成区大今里二丁目四五番地一九
家屋番号 四五番一九
種類 居宅
構造 鉄骨造スレート葺三階建
床面積 一階 三八・〇八平方メートル
二階 三五・一〇平方メートル
三階 三三・〇〇平方メートル
(五) 所在 大阪市東成区大今里二丁目
地番 四五番一八
地目 宅地
地積 六八・七〇平方メートル
(六) 所在 大阪市東成区大今里二丁目四五番地一八
家屋番号 四五番一八
種類 居宅
構造 鉄骨造スレート葺三階建
床面積 一階 三八・〇八平方メートル
二階 三五・一〇平方メートル
三階 三三・〇〇平方メートル